talk_32060101
ハント:僕の名は……狩生ハント高校2年、射撃部……
ハント:……もっとも、狩人を生業とする狩生一族の僕にとっては射撃など児戯に等しい……
ハント:そうだ、僕は……本物の狩りを知っている
???:……トっち……ねえ、ハントっち!
ハント:…………
タマモ:ハントっち、大丈夫?
ハント:犬のようにうるさい女だおちおち考えごともできないのか
タマモ:なっ、犬じゃと!?わらわを犬となっ!?
タマモ:あんな従順でモフモフで人に媚びるだけが取り柄の……
タマモ:ん……待てよ?確か、キツネも犬科だったような
ハント:どうした、何か言ったか?
タマモ:ううん、何でもない!えへへ、犬ってカワイイよねー
ハント:全く……変なやつだお前と知り合ってからろくなことが無い
タマモ:むぅ……
ハント:そんなことよりお前、腹は空いてないのか
タマモ:あ、そう言えばこっち来てから何も食べてないね
ハント:…………
タマモ:な、何~?人のことじろじろ見て、やらしい!
ハント:前から不思議に思っていたのだがお前、経験者か?
タマモ:は、経験者? って何の?
ハント:どこか、僕と同じ臭いがする命を狩る者特有の、血と脂の臭いが
タマモ:何それ、意味わかんなーい
ハント:だろうな、聞いた僕が愚かだったお前ごときが、そんなはず──
タマモ:そんなはず?
ハント:チッ、おしゃべりが過ぎた行くぞ、たまも
タマモ:ちょっと! 行くってどこによ!
chattalk_32060102
タヌヒコ:2人とも、お疲れぃ
タヌヒコ:どうでい? 肉は手に入ったか
ハント:ああ、歯ごたえのない狩りだ
ハント:202101861
タヌヒコ:おお、すげえな!
タマモ:早くたべよ~!
talk_32060103
タマモ:うーん、いい匂~い♪ねえねえ、もう食べていい?
ハント:やめろ、それはまだ生焼けだ
タマモ:えー、お肉はちょっとくらいレアの方が美味しいのに……
タマモ:まさか生が一番だなんて口が裂けても言えんしのう
ハント:よし、こっちはもういいぞよく冷まして食えよ
タマモ:は、はふ、はふはふ……って、あっついわぁぁぁぁ!
ハント:だから冷まして食えと言っただろうほら、水だ、ゆっくり飲めよ
タマモ:ごくごくごく……ごっ、くん
タマモ:ふわぁ~、死ぬかと思ったー
ハント:そんなもので死ぬものか
タマモ:もー、もののたとえだよハントっちって超頭固いよね
ハント:……そう簡単に、死んでたまるか死んでなんてやるものか……
タマモ:え
ハント:僕は生きる生きて、生きて、生き抜いて30まで生き続ける
タマモ:えー、何それ、30歳?そんなに気合入れなくても普通にしてれば生きられるよ
ハント:チッ、おしゃべりが過ぎた食ったら早く寝ろ
タマモ:ちょっと、何それひどくない?
ハント:火の番は僕がしておいてやる明日も早い、今のうちに寝ておけ
タマモ:何なんのよ、それ……もー、ホント、ハントっち意味わかんなーい
ハント:…………
talk_32060201
-:ある日、狩生ハントは狩猟道具の手入れをしていた
-:丁寧に1つ1つ土や脂を拭いながら、淡々と重ねていく
-:その手際は実に見事なものでハントはどこか楽しげに見えた
-:──が、不意にその手が止まる
ハント:……ふん、野ネズミが1匹まぎれこんでいるようだな
-:ハントは道具をその場に置いて静かに立ち上がると足下の小石を拾って投げた
???:あ痛ぁぁぁぁっ!?
ヨイチ:いきなり何すんだよ!
ハント:そのセリフ、そのままお前に返す答えろ、何者だ
ヨイチ:ひぃぃぃぃっ!?そんな物騒なもん、向けねえでくれ!
ヨイチ:お、おいらはただ、狩猟を教えてもらいに来ただけだよ!
ハント:狩猟を? 本気で言っているのか
ヨイチ:おうよ! 本気も本気!ラクーン1の弓遣いになるんだ!
ハント:……帰れ
ヨイチ:はあ? 何でだよ!
ハント:それがわからない内は武器など手にとらないことだ
ヨイチ:へッ、何を偉そうに本当はおいらに教えられるほどじゃねえんだろう!
ヨイチ:フンだ、何がガイアスの狩人だよ!聞いて呆れんぜ!
ハント:何と言われようが構わないだが、お前は勘違いをしている
ハント:狩猟はゲームでもスポーツでもない生きるための命の遣り取りだ
ハント:それがわからない内は何を教えても無駄だ
ヨイチ:うるせえやい!お前なんかに教わらなくてもおいら独りで行けるってんだ!
ハント:…………
ハント:まったく、世話のやけるやつだ
chattalk_32060202
タヌヒコ:ハント、お疲れぃ
タヌヒコ:突然の連絡だったからちょっとびっくりしたぞ
ハント:悪かったな
タヌヒコ:いや、いいんだぜこれがおいらの仕事だからな
ハント:少年を1人、確保した
ハント:外傷は見当たらないが心身が疲弊している
ハント:どうやら僕のせいでショックを受けたようだ…
タヌヒコ:それは心配だな
ハント:町から離れた場所で気絶など危険極まりなかったな
タヌヒコ:とにかくこっちに連れて来てもらえるか
ハント:ああ、助かる
ハント:すぐに向かう
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ヨイチ:……兄ちゃん、ごめんよ
ハント:自分の何が悪かったのかわかって言っているのだろうな
ヨイチ:えーっと……勝手に独りで先走ったこと?
ハント:違う
ヨイチ:だったら、おいらみたいな子どもが狩猟をやろうとしたことだろ?
ハント:僕が初めて独りで狩猟をしたのは5歳だった
ヨイチ:それじゃ、いったい……
ハント:足下をよく見ろ
ヨイチ:足下……って、アリしかいねえけどまさか、このアリが?
ハント:そうだ、お前が踏みつけたその小さな命のことを言っている
ヨイチ:……でも、アリなんて
ハント:1度しか説明しないからよく聞いて覚えろ
ハント:そういう小さな命を感じとれない者に大きな命を遣り取りする力はない
ハント:山へ出れば、狩られるのはお前の方だ
ヨイチ:そ、そうだったのか!?
ハント:そもそも、アリというのはこれでなかなか臭うものだ
ヨイチ:うわ、くさっ……なんか、ブドウみたいな臭いする
ハント:それは蟻酸と言って殺菌・殺虫能力のある強烈な分泌物だ
ハント:そんなものが足裏にべったりとついていたら獲物はどうなる
ヨイチ:……全部、逃げちまうよ
ハント:そう言うことだ狩人になるなら覚えておけ無色無臭は狩りの基本だ
ハント:老練なハンターになれば、香水は当然石けんも洗剤も使わないものだ
ヨイチ:そうだったんだ、おいら、そんなことちっとも知らなくて……って待って!兄ちゃん、今、なんて言った?
ハント:…………
ヨイチ:今、狩人になるならって言ったよね?それって、おいらのこと認めて……
ハント:おしゃべりが過ぎたこれでは間に合わない、少し手伝え
ヨイチ:え、手伝うって
ハント:そこの布で僕の狩猟道具を磨け少しだけなら扱い方を教えてやる
ヨイチ:ガイアスの兄ちゃん、ありがとう!おいら、手伝うよ!
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ハント:お前……何故、ついて来た
タマモ:えー、だめだったの? なんでー?
ハント:この状況を見てわからないのかお前がどれ程無謀なことをしたのか
タマモ:えへへ……めっちゃ怒ってるよね、カノジョ
???:────
タマモ:ひぇぇぇぇ……もー、ちょっと山に入っただけで何でこんなに怒るのよー!
ハント:当然だ、ここは近隣の森の聖域だぞただの山や森とは訳が違う……って、昨夜説明したよな?
タマモ:えへへ、ごめーん、聞いてなかった
タマモ:というか、わらわが占領しに来たと勘違いされたのかもしれんのう
ハント:チッ、こうなったら何をしても無駄だ供物を以て怒りを鎮めるしかない
ハント:お前も手伝え
タマモ:ちょっと! 手伝えって何を?
ハント:…………
タマモ:はぁ、何を期待してんのかわかんないけどさー……
タマモ:アンタがそんな目でわらわを見てるってことが、どんな意味かはわかるよ
タマモ:ハントっち、ちょっと変わったよね?
ハント:変わった? 何がだ
タマモ:うーん、そっかそっか自分でもよくわかってないんだ
タマモ:ふふ、それともわかってないフリしてるだけかな?
ハント:フン、くだらない
ハント:おしゃべりの時間は終わりだ短時間でできるだけ多くの獲物を狩りカノジョに捧げる
ハント:この土砂降りでは僕の目は利かない鼻も無理だろうけど、たまもなら大丈夫だろ?
タマモ:余裕余裕
ハント:よし、頼むぞ、たまもお前の鼻だけが頼りだからな
-:たまもは神妙な顔で瞳を閉じる。静かに手を合わせ、心を研ぎ澄ませて集中していく。
-:すると、不思議な光が彼女の包み、輪郭を仄かに浮かび上がらせていく。
ハント:何だ、これは……
タマモ:くん、くんくん……南から、強いケモノの臭い……
タマモ:南……100歩先の茂みにケーンの群れだよ
ハント:よし、任せろ
タマモ:今度はあっち、32歩先にオーク
ハント:とらえた
タマモ:はわわわ、近いって、50歩……45、40……走ってきてる!?
ハント:落ち着け、問題ない
ハント:たまも、僕の後ろに隠れていろ
タマモ:……う、うん
ハント:はあ、はあ、はあ……こいつは便利だ照準要らずじゃないか
タマモ:くっ……
タマモ:ちと、力を使いすぎたかのう……
ハント:おい、大丈夫か
タマモ:なんじゃ、心配しておるのか?ぬふふふ、ういやつじゃの
ハント:……ういやつ?
タマモ:おっと……そ、そんなことより、ほら、空が
ハント:山の女神も許してくれたようだつかまれ、今の内に山を下りるぞ
タマモ:えへへ、ちょっと無理かもーしばらく立てそうにないね
ハント:仕様のないやつだほら、背中を貸してやる
タマモ:なっ、ちょ、ちょっと!どこを触っておるんじゃアホ!
ハント:……たまも
タマモ:え
ハント:お前には犬の才能があるようだな猟犬としては悪くない働きだったぞ
ハント:たまにはワンと鳴いてみたらどうだ
タマモ:な……失礼なっ!?だから、わらわは、犬っころじゃないって言うておろうがー!
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-:ある日、狩生ハントは、ラクーンの村落で出会った狩人達と食事をともにすることになった。
-:美味しそうな料理を前に我先にとラクーン達が手を伸ばす中、ハントは手を合わせ、小さく呟く。
ハント:今日狩った、全ての命に冥福を。我らが生きる糧となることに感謝を。
マンジ:ハントさん、何をしてんでぇ?早く食わねぇとなくなっちまうぜ
ハント:気にするな、万次僕はこれをやらないと食べることができない
マンジ:あ、ひょっとしてそれってガイアスの作法ってやつですかい
ハント:いや、我が狩生一族に伝わる獲物に捧げる祈りだ
ハント:僕は父にそう教わった父も祖父にそう教わった
ハント:僕ら狩生は生きるために命を狩るだからこそ、狩られる命を忘れない忘れてはならない
マンジ:へえ、興味深いですねぇでもやっぱり秘密なんでしょう?
ハント:秘密ではないが、一族の口伝だ外の者に教えるつもりはない
マンジ:うーん、やっぱりそうですかいそいつぁ至極残念でさぁ
マンジ:そういや、うちらにも似たようなのがありましてね……へへへ、どこでも狩人って奴ぁ儀式好きなんですね
ハント:どんなものがある?少し聞かせてくれないか
マンジ:里では使えねぇ山言葉がありやすね狩りに使う単語が多いでやすが
マンジ:他にも獲物の1番美味ぇ肝の部分を女神様に捧げたりとかおかしな風習が結構ありやしたねぇ
ハント:ふむ、日本の古き狩猟民から昔、これに似たようなものを……
ハント:やはり誰かが伝えている……?
マンジ:なんでぇ、おめぇ興味あんのか?だったら次の狩猟、一緒に来るかい?
ハント:いいのか
マンジ:おうよ、実はおいらもガイアス式の狩りに興味があってよ
マンジ:へへへ、まぁ同業者の情報交換ってことで
ハント:ああ、よろしく頼む
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タヌヒコ:ハント、お疲れぃ
タヌヒコ:万次から聞いたぜい
タヌヒコ:アクアドンメンチキを仕留めたみてえだな
ハント:ああ、万次の案内は的確だった
ハント:流石、地元の狩人だな
タヌヒコ:それ、おいらじゃなく万次に言ってあげてくれな
タヌヒコ:万次、きっと喜ぶぜ
ハント:2
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マンジ:流石ガイアスの狩人だあんた、いい腕してるぜ
ハント:お前の経験と実力も尊敬に値するいい嗅覚をもっているな
ハント:獲物の的確な誘導もよかったあの連携は、やはりラクーンの?
マンジ:ああ、そこがあんたと1番違うところだろうな
ハント:僕と、1番違うところ……?
マンジ:おいら達は仲間と協力して狩る中には犬の相棒を連れてる奴もいる
マンジ:誰が始めて誰が伝えたのかはわからねぇけど昔っから集団狩猟が板についてんだ
ハント:そうか、仲間か
マンジ:ん、どうしたい?何か気になることでも
ハント:いや、何でもないそんなことより肉が焼けているぞ
マンジ:ああ、とっとと祈りを捧げて食っちまおうぜ
ハント:…………
マンジ:どうしたい、黙りこくっちまってよ
ハント:万次、祈り、お前もやってみるか
マンジ:え? でも、そいつは一族だけの……ってか絶対に誰にも教えねえっておめぇ言ってたじゃねぇか!?
ハント:…………
マンジ:ま、まさか、おいらのことを1人前の狩人と認めてくれて──
ハント:……気が変わったさっきのことは忘れろ
マンジ:いやいやいや、もう遅ぇって!教えてくれ、ほら早く!
-:万次とハント、種族も住む世界も考え方も異なるふたりであったが、狩人という1点で交差した。
-:そんな2人は美味い食事に心を開き互いの狩猟技術を教え合い己の能力を高め合うのだった──。
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-:狩ってきた獲物をさばき終えた狩生ハントは、汗と脂で汚れた身体を洗い流すために近くの泉へ来ていた。
-:誰も居ない静かな森の中、小鳥たちの囀りを聞きながら身体を流している。
-:──が、その静寂を鋭い声が破った。
ハント:……誰だ、出て来いそこにいるのはわかっているぞ
ハント:……チッ、また汚れるのかせっかく洗い落としたと言うのに
-:そう言って、置いていた弓に手をかけた瞬間、茂みが揺れた。
タマモ:ちょっと待って! 撃たないで!わらわ、葛葉たまもだよ!
ハント:……はぁ、お前か
タマモ:ごめん、偶然なの洗濯に来たら、先客がいて
タマモ:何か、いけないことしてるみたいで出て行きづらくなっちゃって
タマモ:だけど、その痣……見てると、何だかすごく気になってごめん、すぐに行くから
ハント:構わない
タマモ:え……でも
ハント:ほら貸せ、洗濯、手伝ってやる
タマモ:……ありがとう
タマモ:……ハントっちがいつも独りで消える理由ってこれだったの?
ハント:…………
タマモ:べつに、まあ……言いたくなければ聞かないけど
タマモ:うーん、何となく? アンタがいつも独りで狩りをしてることと何か関係あるのかなーってね?
ハント:何なんだ、お前は
タマモ:はわわ、ごめんなさい!的外れだよね、もう言わないからほらほら、お口チャーーック!
ハント:その逆だ
タマモ:え
ハント:お前の勘は何なんだ、ケモノ並か
タマモ:ドキッ!?
ハント:フン、不思議なやつだお前といるとつい口が軽くなる
ハント:だが、これは僕の運命だ今はまだ誰にも話すつもりはない
タマモ:ふーん、まだ、ねぇ……それって、いつかは話してくれるってことなんだよね?
ハント:ああ、それがお前ならいいとさえ思っている
タマモ:な、ちょっと!ハントっち、何言って!?
ハント:僕にもわからないこんな気持ちは初めてで
ハント:だが……気に入っているんだ、葛葉たまも
タマモ:ちょ、ちょっと待って!わらわ、心の準備が──
ハント:お前、本気で僕の猟犬になる気はないか?
タマモ:へ……本気?
ハント:本気だ
タマモ:なっ、なんじゃそりゃー!だからわらわを犬っころ扱いするなと言うておろうが、アホー!